賃貸退去時の「原状回復」費用は、貸主・借主のどちらがどこまで負担するべきか——この“負担割合”をめぐるトラブルはあとを絶ちません。本記事では、国交省ガイドラインに基づいて、原状回復における負担割合の考え方を明確に解説します。
原状回復とは、退去時に物件を「元の状態に戻す」ことを指しますが、「元の状態=新品に戻す」ことではありません。
国土交通省のガイドラインでは、「通常損耗」「経年劣化」は貸主(オーナー)負担、「故意・過失」「善管注意義務違反」による損耗は借主(入居者)負担と定められています。
このように、日常生活で自然に発生する損耗についてはオーナー側の負担、使い方に問題があった場合は借主側の負担となります。
ガイドラインでは、設備や内装ごとに「耐用年数」が設定されています。これに基づいて、借主に請求できる原状回復費用の“負担割合”が決まります。
設備・部材 | 耐用年数(目安) | 残存価値が1円になる年数 |
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壁紙(クロス) | 6年 | 7年目以降 |
クッションフロア | 6年 | 7年目以降 |
エアコン | 6〜10年 | 経年状況による |
たとえば、クロスの耐用年数が6年で、入居者が8年住んだ場合、張替費用の請求は実質不可能になります。
ただし、短期間での故意による汚損・破損の場合は、耐用年数にかかわらず請求可能です。
これは大きな誤解です。法律上は「通常損耗まで元に戻す」義務はありません。
すべての汚れや傷が借主負担になるわけではないため、管理会社やオーナー側も正しい知識を持つ必要があります。
特約で「ハウスクリーニングは借主全額負担」と記載されていても、その内容が借主に説明されておらず、かつ合理性を欠くものであれば、裁判で無効とされるケースもあります。
特約は①必要性があること、②借主が認識していること、③意思表示が明確であることが必要です。
ガイドラインはあくまでも「消費者保護」の観点から作られているため、曖昧な場合は入居者側に有利に解釈される傾向にあります。
管理会社・オーナー側の主張が一方的であると、トラブルや訴訟リスクにつながる可能性があります。
私たち原状回復工事業者としても、負担割合の判断ミスによるトラブルを数多く見てきました。請求をスムーズに進めるには、以下のポイントが重要です。
「借主が納得できる説明があるかどうか」が、請求成功の分かれ目です。
賃貸物件の原状回復費用は、「すべて借主が払うもの」ではありません。
国交省ガイドラインをもとに、経年劣化と過失を正しく判断し、耐用年数に応じて負担割合を適切に設定することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
いいえ。原状回復費用には「貸主負担」と「借主負担」があり、国交省のガイドラインでは、経年劣化・通常使用による損耗は貸主負担とされています。借主は故意・過失などによる損耗のみを負担するのが原則です。
基本的には、設備や内装の「耐用年数」を超えていれば、原状回復費用は請求できません。たとえば壁紙の耐用年数は6年なので、それを超えている場合、借主の負担は原則1円とされています。ただし、明らかな過失がある場合は例外です。
契約書に特約として明記されており、入居者に事前に説明されていれば、借主負担とすることが可能です。ただし、説明がなく、借主の同意が曖昧な場合は、特約が無効と判断されるケースもあるため注意が必要です。
いいえ。特約が有効とされるためには、①特約の必要性がある、②借主が理解・納得している、③借主が明示的に同意している、の3つの条件が必要です。この条件を満たしていないと、無効とされる可能性があります。
退去立会の場で、損耗箇所の写真を記録し、修繕の対象とならない部分と過失による部分を明確に説明することが重要です。明細付きの見積書や写真付きの報告書を提示することで、借主・オーナー双方が納得しやすくなります。
当社では、退去立会・報告書・見積書の作成を通じて、オーナー・管理会社双方の信頼構築に貢献しています。スムーズで透明性の高い原状回復をご希望の方は、お気軽にご相談ください。