原状回復義務に関するトラブルは、賃貸管理の中でも最も多い紛争の一つです。本記事では、原状回復工事の現場で退去立会まで行う実務者の立場から、ガイドラインに準拠した正しい理解とトラブル予防策を解説します。
原状回復義務とは、入居者(賃借人)が退去時に物件を「元の状態に戻す」義務です。
しかし、「元の状態=入居当時」ではなく、法律上の解釈は明確に定義されています。
この原則は、国交省「原状回復をめぐるガイドライン」に基づいており、トラブル解決の根拠ともなります。
実務で最も多いのが、入居者が「それは自然に劣化したものだ」と主張する一方、管理側が「入居者の使い方が悪い」と判断するケースです。
たとえば、壁紙の色あせや家具の設置跡は経年劣化ですが、喫煙によるヤニ汚れや壁の釘跡は借主負担とされる可能性があります。
契約書に「ハウスクリーニング費用は全額借主負担」などの特約がある場合でも、それが有効と認められるには3つの条件があります。
この説明が不十分だと、契約書に明記されていても無効と判断されるリスクがあります。
たとえば、6年以上経過した壁紙の張替費用を全額借主に請求することは、ガイドライン上妥当ではありません。
「クロスの耐用年数=6年」を超えていれば、残存価値は1円とされ、借主の負担は大きく減ります。
逆に、1年未満で破損した場合は負担割合が高くなるため、正しい耐用年数の理解と説明が欠かせません。
退去立会では、ガイドラインに沿った説明を対面で行うことがトラブル予防に直結します。
当社では、「経年劣化/通常損耗/過失」の判断根拠をその場で写真付きで伝えるようにし、入居者の納得感を高める工夫をしています。
「言った言わない」を防ぐため、立会時の写真記録と、退去精算書の文書化が極めて重要です。
角度別・距離別で3枚以上撮影し、日付・対象箇所のメモを加えることで、後日の証拠として機能します。
精算トラブルは工事内容が曖昧なときに起きます。
たとえば「クロス張替 8万円 一式」といった見積は不信感を招きがち。
「㎡数」「単価」「材料名」まで細かく記載し、過失箇所ごとに明確に分けた見積を提出することで、クレームのリスクは大きく下がります。
法律やガイドラインは「紛争防止」のための土台であり、現場で求められるのは「納得してもらうこと」です。
つまり、正しい説明・証拠・丁寧な対応があってこそ、原状回復工事業者としての信頼も維持されます。
オーナーの資産価値を守ると同時に、入居者への適切な配慮をすることで、次の募集・管理業務も円滑になります。
原状回復義務の法律的な解釈を誤ると、入居者からの不信や訴訟リスクに発展することもあります。
管理会社や工事業者がガイドラインを熟知し、正しく対応することで、退去時のトラブルは最小限に抑えられます。
当社では、退去立会から原状回復工事、報告までを一貫対応し、トラブルの起こりにくい業務フローを構築しています。ご不安な方はぜひ一度ご相談ください。